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【INA】「牛乳配達DIARY」もっと読まれてほしい理由【感想】

INA先生自身の体験を綴った「牛乳配達DIARY」が届いたので昼休みに読破。

 

2017年に愛知県で牛乳配達員をしていたINA先生の日常を描いたたくさんのストーリーが綴られていた。

 

この漫画は第一回トーチ漫画賞でいきなり大賞をとった作品。

 

はじめて描いた漫画なのにすごい…!

 

この漫画の魅力は、個性的な人々との出会いとそこから生まれる発見やユーモアを覗けるところと、

 

帯にある「戻りたくないけど懐かしい日々の記録」が示すようにどこかノスタルジックさを思わせるところだと思った。

 

淡々とした日常に対して、主人公からは浅野いにお先生が描くような絶望感は感じられなくて、不満はあるだろうけれども、前向きさを感じるところが、読んでいてしんどくならない。

 

ひとつひとつの小さな出来事をスルーせずに心の栄養にしている様子が伝わってくる。

 

でも良いことばかりじゃなくてイライラしたりがっかりしたりする様子も描かれていてリアルな記録になってる。

 

そのバランスが読んでてちょうどいいなと思った。日常の陰陽を描いているからどちらも引き立てあっているんだと思う。

 

そもそも自分の体験を、「これ、漫画にできないかな」と思うその発想自体がすごいなあと思う。今まで漫画を描いてきたわけじゃないのに。

 

回を重ねるごとに絵も変わっていくのが、作者と一緒に日々を歩んでるようで面白かった。

 

絵といえばすごく好きなのが登場人物たちの表情だ。デフォルメの強い絵なのに表情が妙にリアルで豊かだから、読んでいて臨場感があって、

 

「こういう困ったおじさんおばさんっているよね〜」とかいろいろと共感ができた。INA先生は人間観察も上手なんだなあ。

 

それから背景の描き方もピシッとした直線で緻密に描かれたものじゃなくて、フリーハンドな線で必要最低限に描かれていて、それが逆に記憶を追体験してる感覚と近くて好きだった。

 

漫画って画力が高ければ必ずしもいいものでもなくて、伝えたいものに合った絵柄というものがあるんだなと思った。

 

そんな「牛乳配達DIARY」をもっと多くの人に読んでもらいたいなと思う。

どんな人生だって2つと同じ物のないストーリーなんだって思えるから。

 


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【浅野いにお作品の魅力】灰色の風景に差し込む陽光

ソラニン」や「おやすみプンプン」などでもおなじみの漫画家、浅野いにお先生の初短編集「世界の終わりと夜明け前」を読んできた

 

浅野いにお先生は気怠さとか絶望の中に柔らかな光をあてる唯一無二の漫画家だと思う。

 

はびこる無関心

がんじがらめにしてくる自意識

灰色にしか映らない世の中

こんなはずじゃなかった人生

もう戻れないあの日の自分

肥大化していく閉塞感に反比例して縮小していく夢や希望

 

そんな僕たちは本当にもうどうしようもないどん底にいるのか

生きてる意味ってなんなんだろう

どこで何を間違えたのか、それとも初めから決まっていたのか

そういう星の下に生まれなかった、ただそれだけ?

 

平井堅の「ノンフィクション」という曲の中に「惰性で見てたテレビ消すみたいに 生きることを時々やめたくなる」って歌詞がある

 

慢性的にアンニュイな絶望感や孤独感を抱えている現代人ってかなり多いと思う

 

それで浅野いにお先生の作品に出てくる登場人物たちに共感してしまう人が多いのではないか

 

それでもやっぱり生きることを諦めきれなくて今日も生きている

 

生きてるとどこかでいいことが訪れる

 

それがたとえ些細な光だとしても、ある人にとってそれはかけがえのないものだったりする

 

浅野いにお先生の漫画の中にはそうした優しい一面が見えるときがあってそういうところが大好きだ。

 

ついこの間までのキラキラした自分が見えなくなった人、

 

つまらない将来が確約されてるように感じて生きている人、

 

とくに二十代後半の人にドンピシャで刺さる漫画だと思う。

 


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【コナリミサト】短編集「恋する二日酔い」達観した人間観察に脱帽【感想】

コナリミサト先生といえばドラマ化もした「凪のお暇」が有名だけど、短編集もアツかった!

 

ピンクビールアワーというビールととある女の子たちの話が13話ある短編集。

 

一話一話に意外性やどんでん返しがあったりして意表を突かれる

 

現代人のリアルなノリや自尊心とか自衛心なんかを描かせたら右に出る者はいないのでは…?!と思うほど、時々グサッと来たり、かと思えばほっこりしたり共感したり…

 

感情移入して読むとほんとにジェットコースターに乗ったみたいな感じになる

 

「凪のお暇」同様に人間模様がコミカルだけどもとにかくリアルなのだ!

 

コナリミサト先生の人間への観察眼の鋭さには脱帽してしまう

 

それともう一つの魅力が台詞!

 

リズミカルで今風で短くても本質を突いていてそのキャラクターの心の底が覗けるような台詞がすばらしい!

 

コナリミサト先生自身もお酒がお好きとのことだったので、そういう台詞回しはお酒の席から出来上がったのかなと思うくらい、テンポがいいのだ

 

今回の短編集で自分が一番好きだったのは第一話。

 

自己主張の激しいかなり攻めたファッションの小林。彼女とは対象的なコンサバな遠藤由麻里。二人の大学生活から物語ははじまる。

 

飲み会で男子たちからチヤホヤされるおしとやかな由麻里、方や元気いっぱいのピエロに徹する小林。

 

そんな小林もいつかきっと自分の良さに気が付いてくれる人が現れると心の底で願っていたのだが、

 

結局、どんなに努力しても周囲から愛されるのは由麻里みたいな女の子なんだって気づいてしまう

 

就職を境に携帯を叩き割りイメチェンした小林は、由麻里のように没個性でおしとやかな女性に扮することに

 

するとたちまち周囲の男性からチヤホヤされるのだが、そうやって寄ってくる男たちって中身が薄いと感じ始める

 

そんな中、シバタという同僚男性とは素の自分のときの趣味が合うことを知り、もっとコイツと話したい…!となる小林

 

しかし、飲みに誘うもののとてつもなく嫌そうな顔で断られてしまう

 

ついでに「小林さんっていつもニコニコしてて大変そうだよね」と、どこか見透かされてるようなことまで言われてしまい、

 

帰りのホームでふと思う

 

どんなにたくさんの異性からもてはやされたとしても、一番仲良くなりたい人に受け入れてもらえないのなら意味がない、と。

 

自己嫌悪に陥っていた小林の前に現れたのは、なんと同じく社会人になった由麻里…!

 

しかもその由麻里の出で立ちに小林もびっくり!!

 

意気投合した二人はピンクビールアワーで飲み明かす

 

「うまーっ!!!」久しぶりに素で飲んだお酒のなんておいしいことと小林

 

結局、人間、素がいちばんかもしれない

 

自分的にはこの物語はハッピーエンドだったと思う。

 

コナリミサト先生は「欲」を描くとえげつないくらいグサッとくるキャラクター像を作り上げてくる。

 

そういう人間の痛い部分を冷静に達観して見ているのだろうなぁと感じるのだ…。

 

 

そういうわけで今回はコナリミサトワールドにどっぷりつかれる短編集のご紹介でした

 

読んでいただきありがとうございました


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【INA】「つつがない生活」読めば日常が愛おしくなる【感想】

トーチ出身のINA(イナ)先生による、二人の夫婦の日常を描いた漫画「つつがない生活」

 

第一話の「買い出し」では、在宅の仕事で不機嫌な妻(ユウ)と仕事を辞めた夫(イナオ)のやりとりから始まる。

 

丁寧に腰低く接する夫に対して、険しい形相の妻。

 

ピリピリする空気感が続き、夫のいってきますにもなんの反応もない様子。出かける夫の後ろ姿のなんと寂しそうなこと…

 

「この漫画、夫婦の悲しい日常を描いた漫画なのか…?」とヒヤヒヤするものの…

 

妻から渡された買い物リストには

〇〇の一言が…!

 

この一コマでこっちまですごく嬉しくなった!

 

第一話はこんな感じで明るくほっこりと大逆転で終わった。

 

2話目以降もそんな仲の良い夫婦のほんとに細やかななんてことない日常が織りなされていく。

 

自分は事件とかイベントとか何も起きない、本当に普通の日常を描いた作品が大好きだ。

 

というのも、昔の自分は、「毎日に何か華がないと生きてるって言えないんだ…!」と焦燥感や失望感に駆られて生きていた。

 

そういう気持ちで心がいっぱいになってしまうと、きれいな景色とか誰かの親切とかご飯が美味しかったこととか、いろんなことが知らないうちに通り過ぎていってしまうとどこかで気が付いた。

 

そんな状態じゃ、たとえ夢が叶ってもどこか満たされなくて虚しい気持ちになると思う。

 

人生の大半はその人なりの日常で構成されていて、そんな日常をどう感じるか、その中に何を見出すか、そういうことでどれだけ幸福感が得られるかが左右されるはずだ。

 

この漫画は読むと日常が愛おしくなる。

 

物足りないと感じるときはなにかを見落としているのかもしれない、そんなふうにも考えさせられた。

 


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【藤子・F・不二雄】SF短編漫画「ひとりぼっちの宇宙戦争」ロボットになくて人間にしかないものとは…?!【感想】【ネタバレなし】

藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス7「ポストの中の明日」に収録されている、「ひとりぼっちの宇宙戦争」について紹介したいと思います。

 

★ラストのネタバレなし

 

 

主人公・鈴木くんはある日、地球を代表する戦士に選ばれてしまう。

 

特にこれといった特技もなく、自信もない鈴木くんはどこにでもいるSFが好きな男の子。

 

学級新聞のネタとして、近所の人がUFOを見たという証言を取材し提案するもボツになってしまう。

 

すっかり落ち込んだ彼のもとに同じ新聞部のえみちゃんが来て、「記事にはならなくても漫画を描いたらいいわ」と励ますと彼は自信を取り戻す。

 

家に帰って漫画を描こうとするも上手く行かない矢先に、いきなり時間が止まり、怪しい二人が現れて、地球の代表戦士に選ばれてしまう。漫画みたいなことが起こるわけだ。

 

闘いの始まりは明晩の0時。

ついにその時が来るも鈴木くんは納得できないまま闘いに巻き込まれていく。

 

鈴木くんが負けたら地球人は奴隷やペット、食糧にされてしまう…

 

相手は自分そっくりで知力も体力も同等のロボット。

 

闘う気まんまんのロボットに逃げ惑う鈴木くん。

 

隙を与えたロボットに剣を刺そうとする鈴木くんだが、殺すことを躊躇ってしまう。

 

その瞬間、腹を刺されてしまい、完全に諦めモードに入って絶対絶命のピンチ状態になるも…

 

眠り込んだえみちゃんの姿を発見すると勇気が湧いてきて…?!

 

 

 

■感想

 

ロボットにはなくて人間にしかないもの

 

それがこの漫画のテーマなのではないかと思った。

 

いつも自分に自信のない鈴木くんはえみちゃんと話すことで元気をもらっている。

 

これは鈴木くんにとってえみちゃんがかけがえのない存在だということだと思う。

 

そんなえみちゃんの眠る姿を見たことで闘う気力を奮い立たすことができたことから、

 

人間にしかないものは、好きな人のためなら頑張れるという気持ちではないかと思った。

 

藤子・F・不二雄先生の漫画の行き着く先は普遍的なテーマが多いように感じる。

 

それでいて説教臭くなくて物語として面白いからすごい。

 

そんな優しいエッセンスの詰まった短編集、まだ読んでいない方はぜひ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【藤子・F・不二雄】 SF短編漫画「泣くな!ゆうれい」が感動的なラストだった…!【感想】【ネタバレなし】

 

 

藤子F不二夫のSF短編集コンプリートワークス7巻に収録されている、
「泣くな!ゆうれい!」について紹介したいと思います。

 

 

★ネタバレなし

 

 


■主な登場人物

・洋一
・ゆう子
・いじめっこのゴッド・ファーザー兄弟

・ゆうれい

 

 

■あらすじ

 

ある日、洋一の家にカエルの置物がやってきたのだが実はその置物にはゆうれいが宿っていた!

 

ある一家に恨みをはらしたいが記憶喪失のため敵が分からず200年もの間、成仏できないでいたゆうれい。

 

そんなゆうれいに「かわいそうなゆうちゃん」と同情する洋一の友人のゆう子。

 

そんなことよりいじめっ子たちをなんとかしたい洋一。

 

恨みをもっている一家には口をあけたバージョンのカエルの置物があるらしい。

 

それを手がかりに見つかったその一家の正体が実は…!!

 

■感想

 

ゆうれいのキャラがひたすら面白い。

 

ゆうれいなのに全然怖くなくて人情がある。

 

ゴッドファーザーたちの邪悪さとゆうれいの人の良さの対比が更におもしろい。

 

 

 

200年間も暗闇をさまようってどんな気持ちだろう?

 

精神的にかなり病んでしまうと思うのだけれど、このゆうれいは喜怒哀楽がはっきりしていて見ていて楽しい。

 

最後のページでゆうれいが感動的な発言をするのでお見逃しなく…!

 

そういうシーンでは、藤子・F・不二雄先生の優しい眼差しが目に浮かぶようだ…。

藤子・F・不二雄先生の作品は、ひとつひとつのセリフから性格や想いが伝わってきて、しかもコンパクトでテンポがいい。


藤子・F・不二雄先生のこういう優しいセンスが大好きだ。ジーンときてしまう。

ドラえもんを読んでいた小学生の頃は感じなかったことだ。

大人になってもう一度、藤子・F・不二雄作品に触れられて本当によかった。

 

そして新しい発見が他にもあるかもしれない。

 

 

 

 

【藤子・F・不二雄】SF短編漫画「アン子 大いに怒る」のヒロインが萌えだった件【ネタバレ無し】

藤子・F・不二雄 

SF短編コンプリート・ワークス7

「ポストの中の明日」のニ作目、

「アン子 大いに怒る」について紹介します

 

★ネタバレなし★

 

 

 

 

普通の女子学生アン子の身の回りで不思議な現象が起き始める。

 

更に自身が火炙りにされる不吉な夢まで見るようになり、一体、彼女の身に何が起きているのか??

 

ドキドキしながら読めてこの作品も面白かった!

 

しかし今回はストーリーではなくヒロイン・アン子の萌えについて語りたい。

 

アン子は父と二人暮らし。しっかり者だが「不吉な予感」を「フケツな予感」と言ったり、時々言葉を変なふうに間違える愛嬌のある女の子。

 

父親のことを「大きい坊や」と表現するアン子からは母性の強さを感じる。

 

母親になってる姿が自然と頭に浮かぶのに、ボーイフレンドはいても彼氏はいないところがどこか清純さを感じる

 

父は絵本の絵を描く仕事についているが家計はぎりぎり。

そんな父にもアン子は「お父さんはそんなこと気にしなくていいの」と優しく応援している。なんて健気で良い娘なんだろう。優しくておおらかでしっかり者。

 

そんなアン子を昨今の母性を求めるオタクたちは放っておけないのではないだろうか

 

そして舞い込んできた怪しい商売の話に、最終的に2000万円を差し出す父に対しても、思い出深い家を担保に入れられてるのに一切罵倒することなく、怒りの矛先は商売を持ち掛けた方に向かう。

 

そのときアン子本人も予想外の出来事が起こるのだが、、、

 

アン子の異質性はその予想外の部分というよりむしろ彼女のやさしさや包容力にあるのではないかと個人的に思っている。

 

絵柄的に最近の萌え系ではないのだけれど、そのキャラクター性によくよく注目してみると、とんでもなく萌え要素が詰まっている。

 

今一度、アン子の萌えに着目して読んでみることをおすすめしたい。

 

 

 

他にも藤子・F・不二雄のSF短編について感想を書いていきます。ぜひ読んでみてね。